公開: 2019年7月31日
更新: 2019年7月xx日
イギリスの政治倫理学者であるベンサムは、ジョン・ロックが提唱した「効用」に基づいて民主主義の意思決定をすべきであると考えました。ロックの効用は、アダム・スミスの経済学でも議論されています。ベンサムは、政治に参加する人々の幸福度を効用と考え、ある政治家の主張が実施されたとき、その支持者である有権者の幸福度が1となると考えます。その政治家の主張が実施されなければ、その人の幸福度はゼロになります。そのように考えて、国民全員の幸福度を考えると、投票で最も多くの票を獲得した政治家の政策を実行することが、国民全体の幸福度を最大にすることになるとしました。これは、イギリスの議会で、国家の意思決定をどのように行うべきかを述べたものです。そのような多数決の議論は、古代ギリシャの時代から、人類は議論してきました。ベンサムの方法もその一つです。古代ギリシャから議論されてきた方法の中には、投票総数の3分の2を得た政策を多数の意見として採用すべきとする方法も知られていて、日本国の憲法などでも使われています。ベンサムの単純な多数決は、一見、合理的な方法のようですが、その背景に重要な欠陥が隠れています。それは、投票する有権者は完全な人間で、投票において間違いを犯さないというものです。もし、100人の有権者のうち5人が、完全な人間でなく、問題をよく考えずに投票したとすると、過半数を得た法案や政策が、本当に国民全員にとって良いものかどうかはわかりません。仮に、5パーセントの完全ではない人々全員が、ある政策に賛成して、1票差の賛成多数で採択されたとしましょう。この政策の採択は、明らかに間違いです。ある程度以上の有権者数であれば、投票総数に関係なく、完全ではない人間はすべて、賛成票を投じたわけです。その数は、1票以上なので、完全な人間の投票を考えると、賛成票の数は反対票より少なくなります。100人中5人が完全とは言えない人間で、その人達が、選択を間違う確率が20パーセント以下であるとすると、本当に正しい国家の選択を行うためには、全体のほぼ3分の2以上の票を獲得しなければなりません。この良い例が、2018年にイギリスで行われた「EU離脱の是非を問う国民投票」です。EU離脱に賛成した票は、過半数でしたが、本当に離脱を希望して投票したとは言えない人が数多くいました。
「再投票」という議論もありますが、民主主義の原則を踏まえると、一度決まった決定をもう一度問うことはできません。